下北沢の夜

「下北沢なんてろくでもない奴らの巣窟なんだ!」

 

山の中に住んでいた、学生は心で皮肉を語る。

田舎町に生まれた私は、都会への羨望か嫉妬か、良いイメージが無かった。

しかし、
都会に拠点を移すにあたり、「ンマァ〜、セモキタザワ!オサケオイシイワァ!」と手のひらは捻転した。

半端者ではあるが、音楽に携わることになった私にとっては今ではよくお世話になる街へと変わったからである。

 

本日、お世話になっているバンドから、サーキットイベントに誘われて出演する事になった我々。

公演も滞りなく無事終えることができ、終演後、袴姿を着替える事もなくお目当てのバンド様の演奏を見に行った。

勝手に同期と思ってるバンドや、勝手に先輩と慕っているバンドの演奏を見て、衝撃が走った。

演者、同業者としてではなく、リスナーとして見入ってしまい、それが堪らなく心地良かった。

何か呆然としながら、同時に「あァ、私も頑張らないと…」と具体性のない焦燥感に背中を押されながら帰っていた。

 

それでも何か、充実した気が身体を支配していた。

心持ちだけではなく、身体自体が、何か軽くなっているのである。

上質なコメディ映画を見たあの時のような。

尊敬する人から屈託なく肯定されたあの時のような。

背負っていた物が無くなる感覚。

「ああ、明日から頑張るか。」

 

 

下北沢は不思議な街である。

演奏家としてあるまじき演奏をお客様に披露した日には、大嫌いな街になる。

田舎で燻っていたあの頃のように。

 

今日の下北沢は綺麗だった。

バンドを始めた時のように。

 

多重人格を患った街から帰る電車の中。

気のせいか、背中に背負っていた憑き物が、軽くなっていた。

 

 

 

 

あれ、ギター無くない?

 

私は背中にギターを背負うタイプの演奏家である。

振り向くとそこには、ナチュラルボーンで初心な背中が、

「フッ、そっかー憑き物はギターだったのかァ。長い付き合いだったな。」

 

 

 

 

 

私は走った。

 

戻らなければ、憧れの下北沢に。

 

背負うものを無くした私は速かった。

そりゃそうだ、ギター無いんだもん。軽いよそりゃ。ミニ四駆の肉抜きと一緒だよそりゃ。

 

 

なんとかサイクロンマグナムはギターを回収した。

 

ちょっとだけ、下北沢が嫌いになった。

「しっかしギタリストがギター無くすなんてなぁ、商売人として落第だよテメェは」

「面目ねぇ…」

「悪い事言わねえ。向いてねえから転職しろ、転職」

「そうだなぁ…実は才能ある仕事がみっかったんだよ!」

「ヘェ〜!話が早えなァ…なんだいそりゃ」

「竿竹屋よ!たけやーさおだけーつってなア!」

「ほー本当に向いてんのか、お前さん?」

「天職だよ!だってよお、竿を無くした方が儲かるからなぁ…」

 

さよなら。

ボンド

 

ps:前回のブログから思ったより早くホームページが更新されましたね…残念…

あと、ギターは竿って言うんですよ。

今回のオチはそこから。

あとは考えましょう。

努力は大事ですよ!

 

 

 

 

 

 

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